--> 裏表紙よりあらすじ 幕末、日本近海には外国船が頻繁に出没し、徳川幕府の動揺をさそっていた。 一方、貧窮のつづく禁裏では、ひとり今上の帝(孝明帝)が暗澹たる世情を憂いていられる。 そうした折り、入内した中山慶子が懐妊、めでたく男子をあげた。 この皇子こそ、幕末動乱のまっただ中に生を享けた明治天皇であった!
--> ここが読みどころ 読者はこれを、後にその功績により「明治大帝」、「明治聖帝」と呼ばれた明治天皇の偉大な足跡を巡る物語・・・と期待してはならない。 結論から言えば、物語は中山大納言家の諸大夫・田中河内介が慶子入内の準備に奔走する様から始まり、最終巻に至ってようやく孝明天皇が崩御、睦仁親王践祚により明治帝となっていよいよ腕の見せどころ・・・というところで終わる。
この巻は皇室のしきたりや伝統、天皇の尊厳や存在意義を事細かに、またそれを理解しようとしない者には「目に見えない力はいっさい信じられない貧しい心根」と切り捨てながら否応なく承知させるように説いている。
確かに皇室の何たるかを理解していなければもちろん天皇についても理解できないわけであるが、それにしても内容が偏りすぎではないだろうか。 山岡氏が物語る人物は、最後の死を看取られることなく終巻となる場合が多くあるが、それは山岡氏の技法によってその人物の生涯を綴るよりも最大限その人物が光り輝くように表現されている。 しかしそれもその人物の功績によって光り輝くもので、この明治天皇の場合は皇室物語に終始し、それさえもない。 皇室そのもののあり方を説くならば、「古事記」を中心に書くべきであったように思えるが、その真意や如何に。
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